法務業務の高度化により、新規事業をリードする法務部へ

法務業務の高度化により、新規事業をリードする法務部へ

株式会社IHI

導入の背景

・社会的トレンドに合わせ業務範囲が拡大、契約業務の効率化・高品質化が急務だった

・レビューや案件の管理など、定型的な業務に多くの時間をとられている

・ナレッジマネジメントの運用・活用に手間がかかる

導入の効果

・必要な情報を瞬時に発見でき、検索のために考える時間がゼロになった

・台帳更新や資料アップロードなど、こまごました業務から解放された

・取引先ごとの交渉戦略を立てられるようになった

総合重工業メーカーである株式会社IHIは、2022年度より契約業務システムとしてMNTSQを活用されています。世の中がカーボンニュートラルというトレンドに大きく舵を切る中で、同社を取り巻くビジネス環境も大きく変化しています。それに伴って法務部門における業務範囲も拡大しており、同社にとって契約業務の効率化・高品質化は急務でした。今回のインタビューでは、契約管理の基盤としてMNTSQを導入いただいた背景やMNTSQを実際に使っていただいた感想、また今後の展望についてお話をお伺いしました。

<参加者>
法務部 事業法務グループ 那須 光様
執行役員 総務・法務・コンプライアンス担当 法務部長 浜田 義一様
法務部 事業法務グループ 亀井 玲那様
※以下、敬称略
※写真左から(2023年3月末時点の役職です)

導入のきっかけ

  • 法務業務の高品質化や改善を考えるきっかけはどんなものでしたか?

浜田:
私は2020年2月にキャリア採用で当社に入社しました。当時は、新型コロナウイルスが日本でも流行し始めた時期で、入社した直後の翌月末には在宅勤務が始まり、LegalTechの導入だけではなく、リモートワークなどを含めた仕事のインフラを整えることの重要性を非常に痛感しました。

当社法務部の役割は、個々の取引に関する契約業務だけではなく、コンプライアンス、危機対応など会社の重要な経営事項に触れるところまで、広く及びます。加えて、ビジネス上の利益を最大化したり、リスクや損失を極小化するという役割も担っています。こういった役割を果たすためには、やはり法務でないとできない専門性を強化することが必要です。

ただ、当社の法務部員は現在36名しかいませんので、当然ながら社外の弁護士や関係会社のリーガルとのネットワークを構築・強化し、一緒になって対応していく必要があります。専門性の強化にしてもネットワークの構築・強化にしても、その実現には多くの時間が必要になりますが、他方で我々は秘密保持契約のレビューや案件の管理といった定型的な業務に多くの時間をとられていました。そこで、それらの業務を効率化して、多くの時間を確保するために、LegalTechを活用する必要があると考えていました。

那須:
さらに言うと、今世の中は非常に速いスピードで変化しています。例えば当社は、カーボンニュートラルという社会的なトレンドの中で新規事業の開発を進めていますが、カーボンニュートラルに関連する法律や規制には何があるのか、そこにはどのようなリスクがあるのかなどといった情報を積極的にキャッチし発信していくことも法務部の役割になってまいります。すなわち、我々は世の中の流れについていくための勉強をしていかなければならない一方で、既存の業務も行わねばならず、その意味においても、我々には時間が足りませんでした。そのため、必然的に業務を効率化しなければならないという背景がありました。

  • MNTSQ導入前の契約業務の運用及び、その時の課題について教えてください。

那須:
MNTSQ導入前は、事業部門から相談を受ける毎に、案件台帳と我々が呼んでいるエクセルファイルに相談内容や進捗状況を逐一記録して案件を管理していました。 また、相談に関連するメールや資料については、部内の共有サーバ上に個別のフォルダを作り、案件管理台帳と紐づけて保存することで、ナレッジを管理していました。これにより最低限のナレッジマネジメントはできていたと思いますが、いわば「案件に進捗がある度に人の手で逐一記録を更新する」という運用なので、非常に手間がかかりますし、蓄積したナレッジを活用するためには、エクセルや共有サーバを探索しなければならず、これにも大きな手間がかかるという課題がありました。

エクセルや共有サーバの検索性の低さを補うため、情報に詳しそうな人に聞く、という手法もありますが、事業部門から法務部に来る相談の件数は年間2,000件前後にも及ぶため、誰か1人に聞けばそれで十分ということもなかなかありません。

  • MNTSQの選定ポイントについて教えてください。

那須:
LegalTech導入を検討する際は、上述のナレッジマネジメントに関する課題を解決しようというよりは、もっと上段の「法務の仕事を効率化、高品質化しよう」ということを目指しており、当時のトレンドもあって、まずはAI契約レビューを検討しました。しかし、重工業というビジネスの性質上、私どもが扱う契約の教師データ(注:AIが学習のために利用するデータ)はあまり世の中に流通していないためか、トライアルをした当時の感触としては、人間のレビューと同程度のクオリティをAIで実現するのはまだまだ難しいのかなと感じました。そこで、AI契約レビューについては技術の発展を待つことを決め、その他の手段で法務の仕事を効率化、高品質化できないかと模索した結果、最終的に、我々がこれまで蓄積してきたナレッジを瞬時に横断検索して活用できるMNTSQというサービスに行き着きました。

MNTSQのデータベースの検索機能を使うと、必要な情報を瞬時に発見できます。例えば、Aさんに聞いたら知らないと言われた情報をBさんが持っていた、ということは誰でも経験したことがあると思いますが、ここでいうBさんのようなキーパーソンを瞬時に見つけることは決して簡単ではありません。一方のMNTSQは、法務部のデータベース全てを瞬時に探索してくれますから、「どうやって調べようかな」「誰に聞こうかな」と考える時間をゼロにしてくれます。これが一つ大きなメリットかなと感じました。

また、案件管理機能を上手く使うと、案件の進捗があるたびにエクセルの案件台帳を更新したり共有サーバ上にメールや資料をアップロードしたりする業務から解放される、という点もポイントとなりました。
まとめると、MNTSQ選定の決め手は、案件管理やナレッジ検索にかかる時間を大幅に削減し、かつ、ナレッジ検索の精度も高めてくれることでした。これはまさに、当初目指していた業務の効率化と高品質化そのものです。

  • 社内で合意形成を進める上で工夫したポイントなどはございますか?

那須:
我々が目指す法務業務の在り方を、社内の人間が納得できる言葉で説明するよう心がけました。
具体的には、まず、MNTSQさんから類似企業様の事例をベースとして、時間削減効果の提案をいただき、それをもとに、MNTSQを導入することは金銭的な費用対効果がある旨を社員に対して丁寧に説明しました。

ただ、ベンダーさんから出てくる数字は当然我々にとっては気持ちの良い数字になっているので(笑)類似企業の例だけではなく、 当社の実際のオペレーションも整理し、 この作業にどれくらい時間がかかっているのか、MNTSQを導入した場合には、何時間削減できるのか、それが金銭的にはいくらの削減になるのかを算出していきました。

定量的な効果は客観的で分かりやすく説得力の強い材料ですが、MNTSQの持ち味はそれだけではありませんから、そこに上乗せする形で、検索体験が向上し、業務品質があがるという定性的な効果もアピールしました。投下費用を上回るだけの業務時間削減効果があり、更に業務の質の向上も見込めるという説明には、大きな説得力があったと思います。

さらに、当社は非常に機密性の高い情報も扱いますので、導入検討の段階でセキュリティ部門を巻き込みながら、当社のセキュリティ要件に適うような運用オプションも議論し、どうしてもクラウドサーバー上へのアップロードが難しい種類の情報については一律にアップロードしないという仕組みを構築することによって、安心感をもって導入できるように進めました。

導入プロジェクトについて

  • 実際に導入してみていかがでしたか?

亀井 :
MNTSQを導入して、日々のこまごました業務が非常に効率的に行えるようになったという印象を受けます。これはMNTSQ導入前からのイメージ通りでした。私は部内異動で事業法務グループに異動したばかりなので、新しい仕事をする際、他案件や過去の契約でどのような表現をしていたのかを検索するときに非常に役立っています。また、入社して間もない社員が過去の案件から学びを得るという教育効果の側面もあると感じていて、嬉しかったです。

  • 導入プロジェクトにおいて工夫したことを教えてください。

亀井:
まず最初に、案件管理機能を利用するにあたって案件登録用のフォームの定義を考えるというステップがありました。このフォームに入力した案件の情報は、そのまま案件の検索に使われますので、ナレッジマネジメントという観点からは、登録した案件情報を今後どういった切り口で検索していくのか、案件情報をどう活用できるのかを想定した上で案件フォームを定義する必要がありました。

マニュアル作成のステップも非常に大変でした。マニュアルの記載は必ずしも作成者の意図どおりに解釈されるとは限らないものなので、各機能の説明は誰が読んでも同様に理解できるものとなるよう心がけました。利用講習会においても、法務部員全員が同じ水準でMNTSQを利用できるように、丁寧な説明を心掛けました。

那須 :
ナレッジ蓄積のポイントは、案件登録用のフォームを作成する際、人によって解釈が分かれ得る選択肢を用意しない、という点です。例えば、ある選択項目において、 Aという選択肢とBという選択肢のどちらにも当てはまり得る事例が考えられるならば、その選択肢の分け方は不適切かもしれません。AとBのいずれを選ぶかが属人的になってしまうため、得られるデータにブレが生じてしまうからです。同じく表記揺れもデータにブレを生じさせる原因となります。このブレは検索性の低下を招き、ナレッジ活用の障害となりますから、MNTSQにナレッジを蓄積する上で、こういったブレを生じさせないことには、かなり神経を尖らせました。

  • IHI様にとっての重要なナレッジはどのようなものですか?

那須:
まず過去の契約文言は非常に大切なナレッジだと思っています。 例えば損害賠償の制限や、免責に関する条項について、毎度自分の頭で全てを考えて文言を決めていたら、かえってクオリティがぶれてミスが生じやすくなります。ですので、そこはやはり良い先例と言いますか、お手本に沿って進めるのが間違いないと思います。個別案件の特殊性もあるので、すべての案件でお手本どおりに対応すべきわけではありませんが、スタート地点として、それらをベースに検討を進めるということは重要だと思います。

そのほか、取引先ごとに、過去にどのような対応を社内で行ってきたのかという記録もまた、重要なナレッジだと考えます。MNTSQのデータベースでは、特定の取引先との契約をソートすることができますので、この機能を活用すれば、例えば、「過去の記録を参照するとA社はこの条件に強いこだわりを持っているので、我々はその点を譲歩した上で、他の点を積極的に交渉していくと良いのでは」というような交渉戦略を立てられるようになります。既存の取引先と新たな契約を結ぶという場面は多いですから、過去の経験はどんどん活かしていくべきでしょう。そういった「攻め」のアドバイスができることは、法務部の一つの理想形だと思っています。

今後のあるべき姿について

  • 今後のMNTSQやリーガルテックに期待することは?

浜田:
やはり簡単な契約書は、大方AIで完結してもらえると良いですね。あとは、やはりナレッジマネジメントです。 例えば、「資源・エネルギー・環境領域 の○○部のM&Aのアメリカ…」というように案件管理をする際、どのフォルダのどの階層にほしい情報が入ってるかわからないケースがあったりするのですが、そのようなケースは今はだいぶ良くなってきたと思います。音声検索も出来るとさらに良いですね。
また、 他社システムとも連携して、ワンストップで契約レビューからその背後にある文献検索、過去の意見書検索など、契約業務の総合デパート的なプロダクトにまで進化すると素晴らしいなと思います。 ちょっと理想は高いかもしれませんが。

那須:
引き続き我々がテクノロジーに求め続けることは、我々の手間をいかに効率化してくれるか、仕事をいかに高品質なものにしてくれるか、この2点はゆるぎないと思っております。そのためには、今我々が行っている業務のうち機械に任せられる業務をどんどん増やしていってもらいたいですね。

様々なテックベンダーがある中で、MNTSQが提示してくれるソリューションはまさにこの「人がやる必要のない業務をシステムが改善してくれる」という点でした。我々の一日の仕事を試しに書き起こしてみると、機械にできる業務はまだまだ出てくるはずです。 MNTSQやテクノロジー業界には今後もそういった悩みを解決してくれることを期待しています。

亀井:
当社の法務部では、過去に弁護士へ相談した情報をデータベース化して蓄積していますが、例えばMNTSQさんも弁護士事務所と連携されていると思うので、特定の分野に精通した優秀な弁護士のサジェスチョンなども、弁護士法に抵触しない範囲でできるようになると嬉しいなと思います。

  • 今後の法務部のあるべき姿はどのようなものですか?

浜田:
法務部にしかない専門性を強化したいです。
現在当社の法務部員は36名ですが、もう少し増やしたいと思っています。とはいっても、なかなか無尽蔵に増やせないので、まずは、業務の効率化ですね。毎日定型的な秘密保持契約書ばかり見ていたり、FAQに答えているわけにはいきません。そのような業務はAIに任せることによって、我々はより高度な業務に集中していく必要があります。

例えば、我々は今まで石炭ボイラー・ロケット・橋の製造などをビジネスとしてやってきましたが、これからやっていかなければならない事業の1つにカーボンソリューション事業があります。我々はボイラーや化石燃料を扱うことには長けていますが、化石燃料の代替となるアンモニアを「作り、運び、貯め、燃やす」というバリューチェーンを作っていこう、というのが当社が今進めようとしているビジネスです。このようなビジネスは会社としては初めてで、当然法務部にも経験がありませんが、我々法務部が率先して、事業を率いていかないといけません。これが高度な業務の一例だと思っています。

ですので、繰り返しになりますが、このような高度な業務に注力するために、案件管理やナレッジマネジメントといった伝統的な法務業務はリーガルテックに任せることが大事だと考えています。カーボンソリューション事業だけではなく宇宙開発事業などの新規事業に注力するために、今まで人でやっていたことをテクノロジーに任せる、そんなイメージです。

株式会社IHIの皆様、お忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。

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