国内外の多様な事業の法務相談を一手に引き受ける
最初に、ニトリホールディングス全体の規模感と法務室の組織体制を教えていただけますか。
田中:
現在、国内外のグループ会社を含めるとニトリグループ全体では5.7万人以上の従業員が在籍しています。法務室には35名おり、他に中国事業専属の法務担当者が2名います。国内外の、ほぼすべての相談を、このメンバーで対応しています。法務室は、神力が所属している「リーガル」、平が所属している「コンプライアンス」、田中が所属している「ガバナンス」、そして「知財」の4つのチームで構成されています。
家具・インテリア製品の販売やホームセンター業など多様な事業を国内外で展開されている御社の場合、それらすべての事業部からの法務相談を受けるとなると、幅広い知見が必要になりますね。
神力:
そうですね。到底、自分の知識だけで対応できる範囲ではないので、法令、裁判例、ガイドラインなど幅広く調査をしないといけないシーンは多いです。そのうえ、当社の場合は他社よりも人事異動の頻度が高く、事業部の新しい担当者から過去に受けたものと同じ質問をいただくこともよくあります。
田中:
頻繁に実施される人事異動は、法務室も例外ではありません。例えば私の場合、新卒で入社し3年ほど店舗スタッフを務め、その後新卒採用を1年担当して店舗スタッフに戻り、5年かけて店長に昇格し、そこから法務室に異動してきました。
法務室に関しては、通常、全く異なる部署からの異動は少ないと思うのですが、御社の場合は、独自のルールがあるのですね。
神力:
そうなんです。様々な事業部で経験を積めるのはとても良いと思いつつ、突然法務室のような専門性の高い部署に異動になると適応するのは大変だと思います。
リソースが逼迫する法務室。新人へのナレッジ共有が課題に
田中さんが店舗から異動されてきたときはいかがでしたか。
田中:
正直にいうと、大変でしたね。当時の在籍人数は今の半分ほどで、ほとんどが弁護士や法務経験者。事業が拡大していくにつれて相談案件が増えていき、相談された案件を打ち返す、いわゆる臨床法務的な業務しかできていない状態で、法務室の人的リソースは逼迫していました。そのような状況下で、まずは受けた案件を書籍で調べつつ、わからないところは先輩社員に質問していました。
ただ、そのような質問も、無限にできるわけではなく、忙しい先輩社員に時間を取ってもらって質問しないと案件を処理できない状況は辛かったですね。
また、案件相談を受けるときは事業部の担当者から直接話しかけられることが多かったので、自分の作業を中断せざるを得ませんでした。電話での相談も多かったのですが、電話だと記録が残らないので、法務室の見解と実際に事業部の担当者が持ち帰った見解に齟齬が起きることもありました。このような状況を改善するために、法務室を取り巻く課題解決に乗り出すべきだと考えました。

案件から契約管理やナレッジマネジメント、すべての要件を兼ね備えていたMNTSQ
そこから、どのように解決方法を検討されていったのでしょうか。
田中:
まずはナレッジマネジメントの導入を検討しました。最初は記録するところからはじめようと、エクセルに記入してみるところから始めたのですが、やはり限界を感じました。そこから、エクセルよりもシステマチックにできるシステムを組めるのではないかと検討が進み、まずは自前で、マイクロソフトのアプリを使って、チーム横断内製でシステムを構築してみたんです。
田中:
ただ、検索性がよくなかったので、専門ツールを探すことにしました。並行して、契約書管理のツールも探していました。もともと利用していたシステムは、オンプレミスのシステムでかなり古く、1つの契約書を探すのに5分もかかるようなものでした。そこで、当時少しずつ出始めていたリーガルテック領域の展示会やセミナーに出向いて、情報収集を進めました。そのなかでいくつかのツールに候補を絞り込んでいきました。
リーガルテックツールはどのような基準で選定されましたか。
田中:
テーマは「一気通貫」です。法律相談のやり取りを開始するところから契約締結までが、すべてつながった状態で管理されている環境を目指そうということになりました。というのも、今までの環境だと、契約書が締結に至るまでのやり取り、契約書審査、その結果締結された契約書がそれぞれ分断された状態で管理されていましたから。そうなると後から契約書を見たときに、どのような経緯で作成されたのかがわからず、そして法務がどのようにアドバイスして、この結果に至ったのかという経緯が見えにくい。もちろん、そのような状態であればナレッジマネジメントもうまくいかないので、それもクリアしたかったですね。
平:
ですから、新しく導入するツールには、案件管理から契約書管理までの一気通貫した機能と、データの蓄積・活用がしやすいナレッジマネジメント機能を求めました。すべて実装しているツールはあまりなかったので自然に数は絞られました。そのなかで、たまたまMNTSQ代表の板谷さんのインタビュー記事を拝見し、まさしく当社が描いている理想と同じことを語られている!と共感したことを覚えています。また、当時のMNTSQの営業担当者の方の対応も親切で当社の要望に歩み寄ってくれる姿勢も好感が持て、導入決定に至りました。
社内周知活動を続けた結果、事業部からの相談はMNTSQ経由に統一
MNTSQの導入はスムーズに進められましたか?
神力:
大変でしたし、まだ完了しているとは言えませんね。上長や経営陣がメリットを理解してくれており、導入に前向きだったため、社内への周知活動はやりやすかったと思います。とはいえ、新しいツールを導入するとなると、これまでの運用をガラッと変えていかなければいけないので、法務室の他のメンバーや他事業部になぜこのツールを導入するのか、メリットを言語化して丁寧に、何度も、伝える必要がありました。

神力:
直接、事業部に対しヒアリングを行ったほか、社内向け説明会も計12回はやりましたね。今も新しい仕組みの導入や、運用を変更する際には、丁寧にヒアリングや説明会を継続しています。
現在は、どの範囲までご利用いただいているのでしょうか。法務室以外の方にも使っていただけていますか。
神力:
はい。現在は、海外法人に所属するメンバー以外は、MNTSQ経由で相談を申請するフローに統一できています。
以前あった、直接話にくるパターンや、電話での相談はなくなったと。
神力:
はい、ほぼMNTSQでのやりとりだけで完結できる環境になりました。もちろん、緊急の場合は電話等で対応をしますが、「ナレッジマネジメントのため、MNTSQに必ず登録してください」と伝え、登録してもらっています。この運用が浸透してからは、自分の業務が止められることはぐっと少なくなりましたし、上司に自分が回答しようとしている内容の確認もチャットベースで済むので、コミュニケーション周りの負荷はかなり軽減されたと感じています。
過去案件の検索性が飛躍的に向上。社内ルールを見直しつつ理想の運用を目指す
ではこの流れで、MNTSQ導入でどのような変化があったか教えていただけますか。

平:
まずは、案件管理の整備ができた点ですね。約7,000件の過去の法務相談対応履歴を取り込んだので、それだけあれば多くのケースはカバーできるはずです。このような案件にはこう回答をすればいいという参考情報が入手しやすくなりました。
神力:
当社の場合、本当にいろんな相談がきます。例えば、各店舗の駐車場に長期間放置された車両・自転車の処理についての相談は、定番の相談です。実は、こういった放置車両の処理は簡単なように見えて、意外に難しい。そんな案件を、法務に配属されて日が浅いメンバーでも、MNTSQで「放置 車両」で検索して、過去の対応案件をみて適切に対応することができるようになっています。
その他だと、広告の表現が景品表示法に抵触していないか、という質問に対しても、過去に対応した回答からぶれずに対応できるので、とても良いですね。
田中:
契約書の検索も、とてもしやすくなりました。従来導入していたシステムだと5分程度かかっていた契約書の検索が、あっという間にできるようになりました。
これらの環境整備のおかげで、業務効率化も実現できていますね。案件ごとのリサーチ時間は、かなり短縮できていると感じています。
かなり運用していただいていると思うのですが、実際、課題解決の達成度はいかがでしょうか?
平:
多くの課題は解決している一方で、目標から見ると6割程度と感じています。やはり一番大きいのは、ナレッジマネジメントの利用方法にまだまだ未解決の課題があること、そして法務室内でもナレッジマネジメントを行おうというクセがまだついていないこと。この2点については、社内のルールを整備していったり、ナレッジマネジメントの機運を高めたりする必要があります。
これらを達成していき、当社の抱えるリーガルリスクを少しでもマネジメントすることを目指していきたいと考えています。
法務室だけでなく、ナレッジマネジメントを必要とするあらゆる部署での導入を
では最後に、今後どのようにMNTSQを活用していきたいか、展望を教えていただけますか。
神力:
ナレッジマネジメント利用の習慣づけと、法務室への相談受付から締結後の契約書管理まで一気通貫で行える環境整備ですね。このあたりは、ツールだけでなく、当社の運用面の問題もあります。ナレッジマネジメントに関しては、人に聞いてからMNTSQで検索するのではなく、MNTSQで検索しても見つからないから人に聞くのが普通だよね、という状態を目指したいです。ちなみに、今後は生成AIとのタッグも期待したいところです。生成AIにふわっとした相談を投げ、適切な案件を検索して出せる環境が一番楽だと思うので、生成AIの組み込みに期待しています。
平:
今後はさらに活用範囲を広げたいと考えています。まずは公取委などによる各種調査の対応履歴もMNTSQに集約しようとしています。MNTSQにデータを入れてもらえれば検索性が上がり、過去の調査対応の経緯も把握しやすくなります。
平:
当社の社内規程の改定を取りまとめ、バージョン管理もMNTSQ上で完結できるようにしたいですね。
神力:
あとは、現状、法務室の業務効率化やナレッジの蓄積に活用していますが、ゆくゆくは他部署のナレッジマネジメントもできる状態にしたいです。
田中:
私のように、突然慣れない部署に異動しても、過去の情報が検索できるような環境を少しでも多くの部署で構築したいです。

株式会社ニトリホールディングスの皆様、お忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。