◼︎「丁寧なヒアリング」が工数を逼迫? 採用難のなかで直面したリソースの限界
MNTSQ 下川:はじめに、荏原製作所様の事業概要についてお聞かせください。
野村:
当社は大正期に渦巻きポンプの理論を実用化・商品化するために設立された会社で、ポンプが創業事業です。現在は「精密・電子」「エネルギー」「建築・産業」「インフラ」「環境」の5カンパニー制で事業を展開しています。
2025年12月期の連結売上高は約9,582億円、従業員数は連結子会社を含めて約2万1,000名、グループ会社は海外も含めて約110社にのぼります。事業規模に対して幅広い領域を手掛けている、多様性に富んだ会社ですね。
MNTSQ 下川:ポンプ事業から始まり、今やこれだけ多様な事業をグローバルに展開されているのですね。新規事業も含めると法務がカバーすべき領域は非常に幅広いと思いますが、どのような体制で対応されているのでしょうか。

野村:
法務部は3つの課があり、全体で26名の体制です。そのうち約20名が契約審査を担当し、残りのメンバーは取引適正化法や建設業法といったコンプライアンス対応に特化しています。対応範囲としては、国内の単体およびグループ会社を合わせた約1万人規模の事業を、ほぼすべて当部でカバーしている状態です。
既存の5つのカンパニーだけでなく、コーポレート機能や、水素・陸上養殖といった新規事業まで、法務が目配りする領域は多岐にわたります。契約件数で言えば、秘密保持契約や業務委託契約などが圧倒的に多いですね。ただ、私たちが本当に注力したいのは、新規事業の立ち上げ支援やM&Aなど、リスクが高く経営判断に関わる領域です。
昨今は売り手市場で速やかな法務人材の採用も厳しく、人を増やすのが難しいからこそ、件数の多い定型業務はシステムで効率化し、浮いたリソースを「本当にやるべき仕事」へ振り向けたい。今回のリプレイスには、そうした組織としての強い思いがありました。
MNTSQ 下川:限られた人員でそれだけ広範な領域をカバーされている中で、貴社の法務部ならではのカルチャーや、業務上の特徴などはあるのでしょうか。
鈴木:
当部は「手厚く、寄り添う」タイプの法務部だと思います。これは法務部に限らず、営業スタイルもお客様に寄り添う傾向にあるため、会社全体の特性かもしれません。
私も小野塚も中途入社ですが、前職の環境と比べても、一件一件のレビュー案件にかなり丁寧に対応するスタンスだと感じています。例えば、簡単に見える案件でも原則として依頼部門にヒアリングを行い、取り組みの目的や背景、懸念点まで細かく聞いたうえで回答を出しています。
依頼部門からの満足度は高いのですが、それだけ時間をかけるため、案件によっては書面のみで検討して回答する方法と比べて何倍も工数がかかってしまうのがネックでした。過去の類似案件をナレッジとして活用できれば効率化できるはずですが、当時は一元管理されたデータ基盤がありませんでした。
そのため「知っている人に聞く」という属人的なスタイルで、あちこちに分散したナレッジを探し回るしかなかったため、MNTSQ導入前はそこが大きな負担になっていましたね。
◼︎ナレッジが10カ所に分散。10年運用の自社システムが抱えていた限界
MNTSQ 下川:そうした「手厚く寄り添う」法務を実現するにあたって、ナレッジの分散が大きな課題になっていたのですね。MNTSQ導入前は、具体的にどのような環境やシステムで業務を進められていたのでしょうか。

鈴木:
「intra-mart(イントラマート)」という全社共通のワークフロー基盤の上に、法務独自のオリジナルアプリケーションを構築して使っていました。10年ほど前に作ったもので、2026年1月まで運用していたものです。
法務用に開発したシステムアプリケーションではあったものの、普通のワークフローシステムの域を出ず、ナレッジ管理という点では限定的な機能しかありませんでした。あらかじめ用意された項目で検索することはできても、メンバー全員が活用できる「共有知」として貯まっていく仕組みではなかったのです。さらに、会社の全社方針によってこのワークフロー基盤自体の廃止(刷新)が決まり、次のシステムへの移行期限が迫っていたという背景もありました。
MNTSQ 下川:システムとしての限界と、刷新の期限が重なっていたのですね。契約書自体の管理は、当時どのようにされていたのでしょうか。
鈴木:
規程上、原本は各部署が管理することになっていました。クラウドサインやBoxにアップロードするというルールはあったのですが、データベースに全てを入れ込む意識を全社に徹底しきれていなかったのが実情です。
契約書だけでなくナレッジについても、Box、Gmail、Googleドライブ、物理サーバー、さらには一つ前のシステムのデータが別の場所に残っていたりして、検討の初期段階でMNTSQさんに整理していただいて初めて気づいたのですが、実に10カ所近くに情報が分散していました。
MNTSQ 下川:10カ所近くに情報が分散していたとなると、現場の皆様としても相当な課題感があったのではないですか?
鈴木:
使い慣れているメンバーも多かったので、改めて課題として認識しにくい部分はあったかもしれません。ただ、契約書管理には明らかに課題感がありましたし、効率化したいという思いも強かった。結論としては、先述したシステム廃止という外的要因があってもなくても、いずれ何らかの検討は進めていたと思います。
MNTSQ 下川:システム刷新という外的要因がありつつも、本質的な業務効率化への強い思いがあったのですね。そこから、どのような経緯で新しいツールの選定を進められたのでしょうか。
野村:
案件の依頼件数は事業拡大により案件数は年々増え続ける一方、人員は急速には増えることはない。この状況で、当部の強みである「手厚く寄り添う法務」の姿勢を崩さずに業務を効率化するにはどうすべきか、というのが最初の問題意識でした。
鈴木:
当時、会社全体として「全社共通の大手ワークフローシステム」へ移行する方針があり、法務もそこに乗せるという話が先に動いていました。リーガル用のオプション機能はあったのですが、仕様面の対応範囲が不透明で国内の導入実績もほぼ皆無。金額面もMNTSQと比べて約2倍の差があり、ファーストペンギンとして導入を牽引するのはリスクが高いと判断しました。
そこで、ちょうど次々とサービスが出始めていたリーガルテックを幅広く比較検討することに。最終的に5サービスを比較したうえで、MNTSQに行き着きました。
◼︎「法務部専用」では意味がない。決め手は「価格設計」と「人事データマスタ連携」
MNTSQ 下川:リーガルテックの比較検討を進められたとのことですが、そもそもMNTSQはどのようにお知りになりましたか?

小野塚:
2019年頃に新聞記事で見たのが最初です。当時はAIレビューが隆盛し始めた頃でしたが、MNTSQについては「何ができるシステムかは分からないけれど、大きな可能性を感じる」といった印象でした。
その後、荏原に入社して課題に直面した際、改めて各社の仕様を調べていく中で「荏原の課題にまさにフィットする」と考えたのが、本格的な検討のきっかけです。
MNTSQ 下川:以前からポテンシャルを感じていただいていたのですね。数あるサービスの中から、最終的にMNTSQを選んでいただいた決め手はどこにあったのでしょうか。
小野塚:
一番大きかったのは、MNTSQが「事業部やグループ会社まで含めて全員で使うこと」を前提とした価格設計になっていた点です。
比較した多くのサービスは「法務部のみが使用する」前提で構築されており、当社の狙う全社的な効率化と合いませんでした。事業部の担当者が過去の申請履歴や法務回答を自分で参照して、本当に必要な部分だけ法務に相談できる。そういう体制を、ライセンスコストが膨らまずに実現できるのは、MNTSQの価格設計だからこそでした。結果として、約1万アカウントという規模での全社展開が実現できています。
鈴木:
当社は良くも悪くも、社内規程をしっかり読むよりも「親切な小野塚さんに直接聞こう」と、ついつい法務担当に直接聞いてしまう文化があるのです。だからこそ、事業部側が手軽に過去の経緯を参照して、自分たちで判断の当たりをつけられる仕組みにしたかった、という背景もあります。
MNTSQ 下川:全社展開を見据えた「価格設計」が御社のビジョンに合致したのですね。機能面での評価はいかがでしたか?
鈴木:
もう一つの大きな決め手は、「人事データマスタ」との連携です。これまではBoxで契約書を管理していたのですが、組織改編があるたびに、法務部側で手作業でフォルダを作り直して、各部署への閲覧権限を設定し直していました。
これが毎年ものすごい労力だったのです。組織情報の登録・更新を人事マスタ連携で自動化できる仕様は、検討当時、他のシステムにはなかった大きな優位性でした。加えて、案件管理の機能で、同じ取引先との過去の契約や類似の契約類型をAIが自動でサジェストしてくれる点も大きかった。
「荏原歴」の長くない中途メンバーも多い当部にとって、自力では辿り着けない参考案件にAIが導いてくれるのは非常に有効です。
MNTSQ 下川:人事マスタ連携は、まさに全社で活用するための重要なピースですよね。いざ導入にあたり、既存システムからのワークフロー移行はスムーズに進みましたか?
鈴木:
入力項目から細かな承認ステップまで、ほぼそのままMNTSQの案件フロー上で再現できました。管理職への事前確認や、複数階層の承認ルートも含めて、現場の業務フローを変えずに移行できたのは大きかったです。
◼︎あえて「説明会は開かない」。画面上の工夫と動画マニュアルで実現した1万人のグループ展開
MNTSQ 下川:現場の業務フローを変えずに移行できたのは何よりです。ただ、1万名規模でのグループ展開となると、事業部の方々からの抵抗や問い合わせも少なくなかったのではないでしょうか。

野村:
正直、もっと問い合わせ、さらに言えば新しいシステム変更に対する反発もあるものと予想していました。当社には「提案箱」という、会社に対して直接意見を届けられる仕組みがあります。ですが今回のシステム変更については、そこへの意見は一件もなく、個別の問い合わせもほとんど来なかったですね。
MNTSQ 下川:それは驚きです。スムーズに受け入れていただくために、法務部として何か特別な工夫をされたのでしょうか?
鈴木:
事業部向けの説明会は、あえて開きませんでした。説明会をしても、一度聞いただけでは、実際に申請する場面でその内容を思い出せないだろうと思ったからです。
それよりも、いつでも参照できるマニュアルを拡充することと、動画解説を用意することに力を入れました。私のほうで使い方を解説する動画を作って、MNTSQの申請フォームの説明欄に「申請の仕方はここで動画解説しているので、必ず見てから申請してください」とリンクを貼っています。
加えて、小野塚を中心に進めてくれているのが、WalkMeというツールの活用です。MNTSQのユーザーインターフェース上に案内文を重ねて表示できるサービスで、ここの操作はこうしましょう、というガイドをピンポイントで差し込めるのです。
野村:
当社では他のシステムにもWalkMeを入れていて、社内では便利だと評価されているツールです。例えばフリーランス保護法にかかるフリーランスの方への発注対応で「これも同法の対象になる」と気づきにくい場面で、画面上に注意喚起を出して徹底することができる。これは非常に効きました。
MNTSQ 下川:なるほど。説明会を開かない代わりに、申請フォーム上の導線や「WalkMe」のポップアップで、つまずきやすいポイントを先回りしてフォローされたのですね。
鈴木:
そうですね。導入直後はワークフローの「次の実行者」設定欄で、現場が感覚的に法務部の上位組織を選んでしまい、100名規模に依頼が一斉に飛んでしまうという混乱が1〜2週間ほど続いたのです。そこにWalkMeで「ここは選ばないでください」というガイドを差し込んだら、以降は同じミスをする人はほとんどいなくなりました。
野村:
こういうトラブルが起きた箇所に、ピンポイントで手当てしていけるのがWalkMeの強みです。最初の混乱が落ち着いてからは、表立った苦情はもう来ていません。
◼︎案件数1.25倍×人員減でも、回答率は57%→89%へ。数字に表れた確かな導入効果
MNTSQ 下川:実際に運用が軌道に乗ってから、法務部内ではどのような変化を感じていらっしゃいますか?
鈴木:
一番大きいのは、情報共有のやり方が変わったことです。以前は、担当の法務部員と課長が事前確認を個人間のメールで擦り合わせて、最終的な成果物だけがintra-martに載るという状態で、他のメンバーは結論に至った経緯までは追えなかった。今はMNTSQ上で背景込みのやり取りがすべて見えるので、案件解像度がかなり上がりました。
特に中途や経験の浅いメンバーにとっては、関わっていない案件の判断経緯まで追えることが、案件理解の深さや育成スピードに直結していると感じます。
小野塚:
やり取りが全部MNTSQ上で完結するのも大きいです。以前はintra-mart、Googleドライブ、Gmailと、いくつものシステムを行き来していたのが、今は成果物の保存も上司への確認も回答送信も同じ場所でできる。そういった面では、ストレスなく仕事ができていますね。
鈴木:
「回答部門内のみ」のコメント機能も重要です。以前はヒアリングシートのように法務部内だけで共有したい情報を、Googleドライブに別保管していたのですが、今はその切り分けがMNTSQ内で完結する。依頼部門に「ここの情報が不足しているので教えてください」と文字で連絡しつつ、上長に「こういう確認を取りました」と内部だけで報告する、というのも一画面で済むようになりました。
MNTSQ 下川:一つのプラットフォーム上でやり取りから情報共有まで完結することで、業務スピードも案件への理解度も大きく向上したのですね。具体的な数字としての効果も見えてきていると伺っています。
鈴木:
先日、2025年2~4月と2026年2~4月で比較した数字を部長の野村に報告したのですが、月間案件数が101件→126件と約25%増えるなか、メンバーは1〜2名減っている状態でした。それでも10営業日以内の回答率は57%→89%まで上がっており、数字としてもはっきり改善が出ています。LPO(Legal Process Outsourcing)の活用推進など他の法務オペレーション改革施策の影響もあると思いますが、MNTSQの寄与度も極めて大きいと見ています。体感としても30%くらい負荷が減っている感覚です。

MNTSQ 下川:素晴らしい成果ですね。導入前には想定していなかったけれど、実際に使ってみて「予想以上に良かった」と感じている機能などはありますか?
鈴木:
案件管理と契約管理データベースが紐付いている点ですね。案件にデータベースのURLを貼り付けておけば、同じブラウザ上で参考資料が見られる。導入してから「便利だな」と気づいた部分です。
野村:
管理職としては、決裁書で承認依頼された契約について検討結果を確認する際に、以前のシステムだと依頼内容を細部まで読み込まないと中身が掴めなかったのですが、MNTSQでは概要やコメントが1つの画面上に表示されるので、案件概要や検討結果がすぐに分かる。これも使ってみて便利だと実感しています。
◼︎相談を待つ側から、事業に深く入り込む組織へ。荏原製作所が描く法務の未来
MNTSQ 下川:ありがとうございます。それでは最後に、法務部としての今後の展望や、MNTSQへの更なる期待をお聞かせいただけますでしょうか。
鈴木:
MNTSQやAIといったツールは、あくまで効率化のための手段であって、それ自体が目的ではないと思っています。
今、人がやらなくてもできるはずなのに、ツールや環境が整っていないせいで人手でこなしている業務がまだ多すぎる。そのせいで、本来やるべき攻めの法務、例えばM&A案件に構想段階から入っていくとか、グループ会社の法務部門との連携を深めるといった領域に、なかなか手をつけられていないのです。
売上が伸びていけば法務の案件数も確実に増えますが、法務部員を案件数に比例して増やせるわけではない。同じメンバーで、攻めの法務領域にもしっかり入っていける体制を作りたい。新規事業についても、相談を受けてから答えるのではなく、構想段階から法務が入っていく動きにシフトしていきたいと考えています。部全体でも、今年度から目標管理にAI活用を組み込んで、全員で同じ水準のAI活用ができる状態を目指しています。
小野塚:
AI契約アシスタントへの期待が大きいです。事業部門の効率化はMNTSQ導入の大きな目的の一つですが、即効性のある効率化策となると、やはりAI契約アシスタントが鍵だと考えています。
当社の契約書式に少し特殊な事情があって、現状は読み取り精度の面で調整中ですが、プロンプトの工夫などのご提案も活かしながら、なるべく早く本格的に使える状態にしていきたいですね。
野村:
私が一番期待しているのは、生成AIによるデータベース・契約書・案件管理の統合的な情報取得機能です。チャットボットのように一つの問いかけで、過去の案件情報も契約書の中身も横串で引き出せるようになる。すでにMNTSQには大量のデータが入っているので、それを情報源として、事業部門からも自然な対話で必要な情報が手に入る状態まで進化していけば、効率化と「攻めの法務」を両立する基盤として本当に力強いものになると思っています。
MNTSQ 下川:荏原製作所の皆様、本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。



