世界規模で展開する総合商社を支える法務組織
はじめに、住友商事様の法務部の体制について教えてください。

川上:
当社の法務部は約50名の体制で、営業グループからの法務相談を受けているチームは4つに分かれています。第1チームが資源とエネルギートランスフォーメーション、第2チームがコーポレートと都市総合開発、第3チームが鉄鋼と化学品・エレクトロニクス・農業、第4チームが自動車、輸送機・建機、メディア・デジタル、ライフスタイル、そして国内地域組織を担当しています。これらの他に、企画チームとコンプライアンスチームを加えて、全部で6つのチームがあります。
ローテーションがありますので、配属が一つのチームに固定されることはなく、違うチームに異動して各営業グループを順次担当していくのが通常のキャリアです。これにより、様々なビジネス領域を担当していけるという特徴があります。海外拠点への駐在や事業会社の法務部、あるいは文書総務部など法務系の他部署で経験を積む機会もあります。
普段の業務では普段どのぐらいの契約数を担当されるのでしょうか。
川上:
契約数は、ビジネスの種類・内容や、プロジェクトの規模に応じて大きく変わります。再生可能エネルギーのビジネスを例に取ってみると、商業施設の屋根などの空きスペースにソーラーパネルを設置し、発電した電力をその場で消費するという小規模な案件もあり、この場合、1つのプロジェクトにつき数件ほどの契約で完結することもあります。一方で、洋上風力など、大規模な発電所を建設するプロジェクトで、銀行からの資金調達も必要な案件になると、数十件以上の契約が発生することもあります。

酒井:
私が担当している事業でも同様に、比較的小規模なトレード案件から大規模なプロジェクトの場合は数十から数百億円規模の案件を取り扱うこともあり、かなり幅広い領域での対応が求められます。
法務部としての多様性と専門性の両立を目指す
MNTSQ導入前に法務部門が抱えていた課題について教えていただけますか。

藤田:
当社はビジネスの範囲が多種多様で広く、法務担当者も様々な事業分野や法域、法分野について幅広く経験を積んでいます。さらに総合商社という性質上、新規事業に取り組むことも多く、多様なノウハウが各人の中に蓄積されているという状況にありました。そのノウハウは当社法務部の貴重な財産と言えるものです。
一方で、様々なキャリアの方が当社に入社しているという状況もあります。昨今は中途採用で他社から加わる人、法務部から他部署に異動して戻ってくる人、男女関わらず育休を取って戻ってくる人など、本当に様々なキャリアの人がいます。
そうした様々なキャリアの人たちが、それぞれの経験を背景に個別の強みを発揮している一方で、これまで住友商事の法務部で蓄積してきたノウハウを整理して、当社の法務としてのプラクティスも同時に伝えていかなければならない、という課題がありました。
酒井:
もう一つは、業務が逼迫してきているということがありました。法務部に求められる役割が広くなってきており、従来の契約を見てアドバイスするだけでは足りない。例えば人権や環境、経済安保といったジャンルのリスクについても、私たちが関わる案件にそういうものがあればレビューして解決していかないといけません。
当社のような企業の中にいるからこそ、従来の法務業務にはないような会社の重要事項に関与できるというやりがいを感じる一方で、忙しいのは事実なので、テクノロジーの力を借りて業務効率化を推進しなければいけないという思いもありました。
これまでのナレッジ管理の状況はいかがでしたか?
川上:
法務業界全体に当てはまることかもしれませんが、職人気質と言われがちで、それぞれの担当者の手元にいろんな過去の契約書やノウハウがあるものの、それを全員に共有する仕組みが限られていました。
全社でクラウドストレージサービスは導入していましたが、毎回手動でファイルを格納していかないといけませんし、格納したからといって検索性にも制約があり、向上させる余地は大いにある状況でした。そこでナレッジマネジメントができるリーガルテックツールの導入を検討し始めました。
MNTSQ導入の決め手:ナレッジマネジメント×AIへの期待
MNTSQを選んでいただいた理由を教えてください。
川上:
MNTSQの機能として、契約書などのノウハウをデータベースに半自動的に保存でき、保存したノウハウの検索・参照がしやすいということで導入を決定しました。
また、MNTSQの運営に関わっていらっしゃる長島・大野・常松法律事務所とは当社としてもお付き合いがあり、日本有数の大手法律事務所であるということでサービスの品質も信頼できそうだというところもありました。
さらに、ちょうどChatGPTなどが登場しつつある時だったので、このタイミングから自社のノウハウをデータベースにしておくと、将来それを使って色々なAIを活用できる基盤を構築できるのではないか、というのも理由の一つとして考えていました。
他社サービスとの比較検討はされましたか?
酒井:
リーガル・テックの導入という大きな枠組みでは、色々な製品を検討しましたが、一番改善したかったのは、ナレッジマネジメントでした。当時、ナレッジマネジメントに特化しているのはMNTSQさんだけだったので、あまり比較はしませんでした。以前、RPA的なツールを導入してみたことはありました。契約書をフォルダにたくさん入れておくと契約書の種類ごとに自動的に振り分ける機能があったのですが、結局RPAを動かすためには、そこにやっぱり手動でファイルしていかないといけないというのもありますので、やはり自動的に保存していけるような仕組みが必要だよねということになり、MNTSQを導入しました。
自動的にナレッジを蓄積し、活用しやすい環境に
MNTSQ導入後の効果について教えてください。
藤田:
ナレッジ検索をよく利用しており、様々なシーンで役立てています。具体的には、営業部との会議の場で至急過去の案件情報を参照する必要があった際、MNTSQ上でキーワード検索すると、必要な案件情報をすぐに見つけることができました。以前の管理状態ではそこまでスピーディに見つけられなかったと思います。
川上:
案件管理に紐付いたメール連携機能をメインで使っています。法務部から営業部にレビュー結果をメールで送信する際に、CCにMNTSQのアドレスを入れておくと、やり取りする契約書がどんどん取り込まれていきます。これにより、ナレッジが自動的に蓄積される仕組みを実現できました。あとは、先例やサンプルの参照がすごくやりやすくなったのは大きいですね。ドキュメンテーションのときに自分でゼロから作文するのは効率が良くないですし、適切な先例を参照できるかどうかの時点で勝負が付いていることが多いのですが、適切な先例やサンプルをすぐに参照できて、そこから近道ができるのでとても助かっています。
酒井:
案件の引き継ぎの際に、これまでは過去のデータを引き渡すということで手間がかかっていましたが、MNTSQにあらかじめ蓄積されていれば、担当者の欄に追加すればすぐに過去のデータを見れるようになります。引き継ぎがしやすくなったという声も多く上がっていますね。
AI契約レビューにより、住友商事らしいレビューが標準に
新しく導入いただいたAI契約レビュー機能についてはいかがでしょうか?
藤田:
MNTSQのAI契約レビュー機能は独特で、データベースに蓄積した自社のナレッジを活用できるのが強みだと理解しています。当社の場合、本当にビジネスが多種多様にわたるということもあって、定型的な契約が少ないので、一般的なリスクを指摘されてもそれほど有用ではありません。自社のナレッジや社内で過去に類似案件でどんな契約を作ってきたかといった知見を参照することが重要だと思っており、そこがMNTSQのAI契約レビューにマッチしていると思っています。
酒井:
先のお話にもあった通り、当社の法務部には多様なキャリアを持った方が在籍していますが、誰に聞いても使いやすいという意見が上がってきます。特に若手の方や、最近法務に入っていただいた方、あるいはキャリア採用の方など、一般的な契約書の条項に慣れていない方にとっては、同種事案の契約書も参考にできますので、レビューの際に参考になると思っております。
特にキャリア採用者の場合、他社での経験は一定あるものの、必ずしも当社のビジネスに近い経験はないことが多いので、当社のスタンダードを理解していただくという点でもとても有用だと聞いています。あとは、AI契約書レビューの雛形との比較機能もあるので、ある程度契約レビューに慣れている方にとっても気づきにくい条項の抜け漏れの確認にも有用だと思います。
川上:
私は実際に使ってみての感想として、Word上のアドイン機能で提供されるため、画面やアプリケーションを切り替えることなく、通常の契約書レビュー業務の延長線上で使えるという点が特に使いやすいと感じています。
これまではMNTSQ上で過去の事案を検索して、キーワードを入れて探していましたが、今はWordを開くだけで参考になる条項を自動的に提案してくれるので、作業の効率化に繋がっています。
AI契約レビュー機能が特に役立っている利用シーンはありますか?
藤田:
個人的には、契約レビューするときはまずはWordのアドオンでMNTSQを開いて類似例をチェックしています。NDAなど定型的な契約の場合だと特にマッチしている条項が多く、わざわざ検索しなくても参考例が出てくるのは助かりますね。このような1つ1つの作業の地道な効率化を積み重ねていけているのではないかと思います。
あとは、あまり業務の数としては多くないのですが、知財関係の契約などを見るときに、どのような条項がスタンダードなのかすぐには思いつかないことがあります。
その際にMNTSQのAI契約レビュー機能を利用すると、自動的にひな型と比較してくれるので、こんな条項を入れなきゃいけないんだということを知ることができるのは良いですね。あまり慣れてない契約類型でも抜け漏れがないようにチェックできています。
多様な課題に挑み、事業価値の創造に貢献する法務部へ
御社の法務部として掲げているビジョンについて教えてください。
藤田:
我々の法務組織のビジョンとして、「あらゆる法的課題にチャレンジし、事業価値の創造に貢献する」ことがあります。「事業価値の創造に貢献する」というのは、単にルールを解説したり法的にOKかどうかを答えるだけではなく、ビジネスの価値の維持・成長に繋がる貢献をしなければならないという意味です。
そういうビジネスで貢献するという役割を果たすためには、ビジネスの深い理解や、物事を広い視野で捉えて本質をつかむ力、コミュニケーション力といった、実際の業務経験を通じて身につけていく力が必要になってきます。
その経験は個人だけでは限界があるので、他の法務メンバーの経験を自分のノウハウとして活用していけるというのがナレッジマネジメントの目的の一つではないかと思っています。だからこそナレッジマネジメントの環境をしっかり構築したいという想いが強くあります。
今後のMNTSQへの期待について教えてください。
藤田:
MNTSQの代表である板谷さんの熱量がとても高く、その熱量があればきっと我々の期待を超えてくる展開があるのではないか、と大きな期待をしています。
また、MNTSQは単なる管理ツールを提供しているだけでなく、「このプロダクトで世の中を変えていく」という熱い思いが込められている製品だと感じました。世の中には様々なリーガル・テックの製品が次々と登場していますが、今後MNTSQはそれらの製品の良いところを取り入れて、MNTSQだけですべてが完結する世界を実現してくれるのではないかと期待しており、とても楽しみです。
酒井:
ユーザー自身が気づいていない課題を超えて、その解決策を用意していますという世界観だと、我々としてもありがたいですし、その状態に到達していただけるのではないかと期待しています。
川上:
先日プレスリリース(https://mntsq.co.jp/news/release/aikeiyakuasst)でも出ていたと思うのですが、法務分野に特化してAIをチューニングして、定期的な法務相談に対して自社のノウハウやナレッジを参照しつつ答えてくれるようなAI契約アシスタント機能を開発中だと伺っています。当社としても開発にはぜひ協力させていただきたいと思っています。
MNTSQを導入した目的の一つとして、「自社のノウハウを整理してデータベース化し、それを今度はAIが参照・活用してさらに繋げていく」という、次のステージを見据えていたという点があります。こちらのMNTSQの新機能は、まさしくその次のステージに繋がる機能だと思うので楽しみにしています。
当社の中期経営計画でも「デジタルとAIで基盤・経営基盤や業務を変革する」というキーワードがあります。AIで業務を改革するというところへの期待が全社的にあるのも、その流れの一つです。そういう意味でも、明日からすぐにでも使えないかぐらいの気持ちで開発を見守らせていただいているというところです。
住友商事株式会社の皆様、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。