グローバル展開と地政学リスク。年間4,000件超の審査を支える法務体制
MNTSQ 小野:はじめに、東京エレクトロン様の法務部の体制について教えてください。

太田:
本社の法務部には、現在30名ほどが在籍しています。
弊社の組織体制の特徴は、法務領域の専門性を細かく分けている点です。まず、「Global Business Plaform本部」という、人事・総務・法務を束ねる大きな組織の下に、「法務コンプライアンスユニット」が配置されています。
そして、このユニットのなかがさらに細分化されており、「法務部」「コンプライアンス部」「コーポレートガバナンス部」「知的財産部」の4部署が、それぞれ独立して存在している形です。
他社様ですとこれらが1つにまとまっていたり、法務と知財の2つのみに分かれていることがあるかと思いますが、弊社はより専門性を高める体制をとっています。その中で私たち「法務部」は主に、契約審査、法律相談、法令調査、訴訟・インシデント対応、M&A対応などを担っています。
MNTSQ 小野:貴社ほどの事業規模となると、取り扱われる契約書の件数も膨大な数になるのでしょうか。
太田:
そうですね。弊社グループは国内で製品の開発・製造を行い、本社がその販売を担うビジネスモデルをとっています。そのため、一連のやり取りを1案件としてカウントした場合でも、国内各社・各部門の新規審査だけで年間およそ4,000件に上ります。
あらゆる取引の入り口となるNDA(秘密保持契約)が最も多いですが、開発委託や大学との共同研究、サプライヤー様との取引基本契約など、契約の種類も多岐にわたります。
さらに、国内だけでなくアジアの複数の現地法人でも、MNTSQを利用して契約審査を行っています。このようにグローバルに事業を展開しているうえ、近年は地政学リスクも高まっているため、法務が目配りすべき領域は急速に広がっています。
こうした事業環境の変化を先読みし、いかにスピーディかつ的確に対応していくかが、現在の法務部にとって喫緊の課題となっています。
20年アップデートし続けた「最強の自社システム」。それでも変革を求めた理由
MNTSQ 小野:続いては導入のきっかけについて伺いたいと思います。MNTSQ導入前は、自社開発でかなり作り込まれたシステムを開発していましたよね。
太田:
ええ。私が入社した当時のMicrosoft Accessから始まり、約20年かけて4回ほどリニューアルを重ねてきました。最新版は、私たちが仕事しやすいよう半期ごとに情報システム部門へ要件を出し、アップデートしてきたものです。
案件・契約・依頼・雛形の管理まで網羅しており、業務プロセスに完全にフィットしていました。他社の法務部がまだExcel管理中心だった当時、「ここまで充実したシステムはうちくらいだろう」と自負するほど、大きな不満はなく愛着もありましたね。
MNTSQ 小野:期限管理やナレッジの紐付けまで完璧で、MNTSQの担当コンサルタントとしても「正直困るくらい」優秀なシステムでした。それほど満足度が高かったのに、なぜリプレイスを決断されたのでしょうか?
太田:
最初のきっかけは、世間でAIが注目され始めた2017年頃です。
案件が増え続けるなか、契約書のデータ入力業務をAIで自動化できないかと考え、外部の開発会社に見積もりを依頼しました。ところが、「実現には数千万円かかる」と言われ、当時は断念せざるを得ませんでした。ただ、その後も審査件数は増え続け、外部の業務効率化ツールを探す必要性を感じていました。

財部:
業務効率化と同時に、限界を感じていたのが「ナレッジシェア」です。過去の案件ごとに「なぜ契約内容を変更したか」の記録は残していたものの、システムが備えていた検索機能を全てのメンバーが100%活用できているとは言えない状態でした。
過去の経緯を知っているベテランならキーワードで探せますが、新メンバーは知見の存在自体を知らないため辿り着けず、貴重な情報が「眠れる資産」になっていました。
田中:
類似案件の審査などに過去のナレッジは不可欠ですが、自社システムではこの「検索」が一番のネックでしたよね。
ただ、検索エンジンを強化するにも先ほどのAIと同じく莫大なコストがかかります。ちょうどリーガルテックのサービスが出始めた時期だったため、様々なツールの比較検討を始めました。
太田:
また、情報システム部門に開発を依存し続けなければならない「属人化のリスク」も懸念していました。社内で開発できるエンジニアを継続的に確保し続けなければならず、担当者の異動や離職があれば、システムの維持自体が立ち行かなくなる可能性があったんです。
コストの壁でAI機能も追加できない中、自分たちのシステムに満足するあまり「このままではガラパゴス化し、世の中の業界標準から外れてしまうのではないか」という危機感を抱いたことも、新たなツール探しへと踏み出した大きな理由です。
決め手は「AIの進化」と「信頼性」。将来性に賭けた意思決定
MNTSQ 小野:そこからさまざまな他社製品もトライアルされた中で、最終的にMNTSQを選ばれた理由を教えていただけますか。

田中:
実は、一番最初にトライアルをしたのはMNTSQさんでした。ただ当時は弊社の過去データを入れて検証できなかったため、実業務へのフィット感がイメージできず、一度見送ったのです。
その後、他社のツールを数十名で1〜2年ほど本格的に試してみました。しかし、そのツールは一般的な基準で指摘を行う機能が中心だったため、「過去の審査経緯を尊重する」弊社のスタイルと合わず、かえって修正対応に時間がかかってしまいました。本当に効率化に繋がっているのか、疑問が残る結果になったんです。
MNTSQ 小野: そこから、どのように再度MNTSQをご検討いただいたのでしょうか。
田中:
「企業法務研究会」のような他社法務との交流の場に顔を出したり、競合製品を先行導入している大手企業の担当者から実情を伺ったりと、業界全体の動向を把握するための時間を作りました。そうして主要なサービスが出揃った2021年頃、改めてMNTSQさんに再度お声がけしたのです。
率直に申し上げると、その時点でも「MNTSQが自社システムを完全に超えている」と確信していたわけではありません。 必要な機能は備わっていましたが、当時はまだ物足りなさを感じる部分もいくつかありました。
ただ、その前に試行していたレビュー特化型ツールも、弊社の審査スタイルとコンセプトが合わず不採用という結論に至っていました。 それでも最終的にMNTSQを選んだのは、現システムとの機能差よりも、プロダクトが持つ「将来性」に賭けたという部分が大きいです。
具体的には、リーガルテック業界全体を見たときに、長島・大野・常松法律事務所と提携している雛形の充実度や信頼性は魅力の一つでした。
そして何より、私たちでは開発できない「AI機能」の存在です。特に、過去に自社開発を断念したことがある「AIで契約書を読み取って入力する」という機能がすでに実現されていました。こうした四大法律事務所の存在やAIの進化も見据えたMNTSQの未来に期待したんです。
20年分のデータ移行と、全社を巻き込むプロセス改革の壁
MNTSQ 小野: そうして導入が決定し、実際に稼働するまでに国内で丸1年、そこから半年後に海外利用も開始されました。導入プロセスにおいて、一番苦労されたのはどのような点でしたか。
太田:
大きく2つあります。
1つ目は「データ移行」です。旧システムには20年分の知見があり、「どの契約がどの経緯に紐づくか」という独自のリンク機能まで作り込んでいました。
これを失わずに移行したかったのですが、独自仕様ゆえに完全な引き継ぎは難しく、そのため最終的には割り切りも必要だと考え、MNTSQでの検索運用や将来のAI進化でカバーしていく決断をしました。
2つ目は「契約管理の事業部への移管」です。旧システムでは、契約書の保管や期限管理など、法務部が「ゲートキーパー」として一手に担っていました。
今回、MNTSQの導入に合わせ、この管理業務を各事業部へ移管することになったため、単なるツールの使い方ではなく「なぜ管理体制を変えるのか」という根本の意図から、各部署へ説明して回る必要があったんです。
MNTSQ 小野: 他部署に業務をお願いするとなると、「今まで通り法務でやってほしい」といった反応もあったのではないでしょうか。
鬼頭:
システム導入自体への反発はありませんでしたが、各部署の方々も真剣にリスク管理を考えてくれていたからこそ、「今まで法務がゲートキーパーとして担保していたリスク管理を各部に移して、本当に大丈夫なのか?」というリスク管理手法の変更への懸念の声は多くいただきました。
MNTSQ 小野: その懸念に対して、最終的にはどのようにご納得いただいたのでしょうか。
鬼頭:
各事業部をそれぞれ担当する6名の導入メンバーを法務部内に立て、各部の皆様と膝を突き合わせて対話を重ねました。「業務移管を行った場合にどんなリスクがあるのか、またリスクを最小限にするためにはどうしたらよいか」といったディスカッションは、かなり活発に行い、各部側からもたくさんのアイデアやアドバイスもいただきながら、解決策を探っていきました。
その中でも、契約書データの入力業務の移管におけるリスクの低減は大きな課題のひとつでしたが、その解決に寄与したのが「AIによる入力補助機能」です。「MNTSQならAIが契約書を読み取って自動入力してくれるので、皆様は入力内容をご確認いただくのみで大丈夫です」とご説明することができました。
契約管理を「法務」から「現場」へ。全社巻き込み型の運用が実現した効率化と透明性
MNTSQ 小野:実際に社内で本格的な運用を始められてから、どのような成果を実感されていますか?

鬼頭:
最大の成果は、実務を担う各部署が契約書を直接管理することにより、従来より機動的な管理が実践できるようになった点です。
MNTSQ導入により、各部が自部署で締結している契約書を台帳にて一覧で確認できるようになりました。その結果、わざわざ法務へ「あの契約書はどこにありますか?」と問い合わせることなく、必要な時にスピーディに各部にて内容確認ができるようになったのは、今回実現できた大きな成果だと思っています。
MNTSQ 小野:長年使い込んだ自社システムは非常に優秀だったと思いますが、「以前のシステムの方が勝っていたな」と感じる部分はありますか?

鬼頭:
以前は手動で関連契約を紐付けていたため経緯を辿るのがスムーズでしたが、現状のサジェスト機能では意図しない契約が出てくることもあり、確認の手間が少し発生している現状があります。
財部:
検索条件の細かさも同様ですね。
例えば「A社とB社の二社間契約だけを抽出する」といった弊社独自の検索方法が、現状では再現しきれていない部分があります。ただ、これは「これまでのやり方が正解だったのか」を問い直す良い機会でもあるんです。
新しいシステムに合わせて、内部のプロセスをどう変革していくべきか。今はまさにその過渡期だと捉えています。

MNTSQ 小野:率直なフィードバックをありがとうございます。逆にMNTSQに対して「予想以上に良かった」機能はありますか?
太田:
私は「比較機能」が本当に素晴らしいと思っています。確認業務の中で、過去の審査内容と今回を比較する作業が多いのですが、精度が高くとにかく見やすいです。これは以前のシステムにはなく、使って初めて分かった大きなメリットでした。
田中:
私は、「OCR(光学文字認識)機能」の優秀さに驚きました。他社の有名ソフトでは日本語が文字化けしてしまった紙の書類も、MNTSQならコピペ可能な状態でデータ化されたんです。この基礎技術の高さがあるからこそ、契約書の項目抽出も高精度に行えるのだと感心しました。
MNTSQ 小野:最後に、今後の法務部としての展望や、MNTSQに期待することをお聞かせください。
鬼頭:
AIの活用には非常に期待しています。弊社の契約数は年々増加していますが、法務部員を無限に増やせるわけではありません。法務がより専門性の高い「コア業務」にフォーカスするためには、AIが契約を読み込んで一次対応をしてくれるような、「前捌き」の自動化がマストだと考えています。
財部:
私は、グループ会社も含めたガバナンスの観点から、組織変更に伴う「アクセス権限管理」の自動化や、将来的な「Eディスカバリー(電子証拠開示)」への対応など、さらに広い領域での効率化を期待しています。
太田:
ナレッジシェアについては、これからが本番だと思っています。検索性の向上やAIレビューによるリスク担保など、MNTSQが進化していく中で、我々も使いこなし方を模索していきたい。今後の発展を非常に楽しみにしています。
MNTSQ 小野:東京エレクトロン株式会社の皆様、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。



