スタートアップが「文化」を創る。フリマアプリが教えてくれた衝撃

——北野さんはもともとCS(カスタマーサクセス)のプレイヤーとしてMNTSQに入社されたそうですね。
北野:
そうですね。2022年の11月に入社して、半年ほどはCSのプレイヤーとして活動していました。
その後、CSの部長を経て、2025年4月からは事業本部長として、マーケティングからセールス、CSまで約50名のフロント部門全体をマネジメントする役割を担っています。
実は、事業本部長となった今でも、数は減らしながらですがお客様の担当は続けています。ポジションは変わっても、現場のリアルな声を聞き続けることを大切にしたいと考えているためです。
——もともと、MNTSQに転職されたきっかけや理由は何だったのでしょうか?
北野:
話は少し遡るんですけど、僕がスタートアップに興味を持った「原体験」があって。
MNTSQの2つ前の会社は社員が1万人もいる大企業で、コンサルタントをしていました。そのころにたまたま、前々職の同期がフリマアプリのプロダクト責任者を担っていて、かなり初期からフリマアプリを使う機会があったんです。
フリマアプリを使ってみたときの衝撃は忘れられません。単なるフリマアプリではなく、「人が物を買う」という行為そのもののカルチャーを変えたのだと強烈に感じました。
「新品を買う前に、これを売ったらいくらになるだろう?」とフリマアプリで調べる自分がいたり、中古品を探すならAmazonではなくまずフリマアプリを開いたり。間違いなく、僕自身や人々の「モノを買う」という行動そのものを、明らかに変えた感覚がありました。
その時に強く感じたのは、こうした人々の行動や価値観など、世の中を文化レベルで変えられるのは、当時コンサルタントとして対峙してたような大企業ではなく、スタートアップなのかもしれないということ。それ以降、スタートアップで働くことを選んできました。
——その「文化レベルで変える」という視点でいうと、MNTSQが挑むのは「契約業務」の領域でしょうか?
北野:
まさにそうですね。僕自身は、ずっと事業部門側の人間だったので、法務部に契約の確認をお願いする立場でした。
そこで常に感じていたのが、契約プロセスが事業のスピードを落とす「ボトルネック」になるもどかしさです。返答に時間がかかったり、あるいは聞いた法務部の担当者によって見解が違ったり。「先日AさんにはOKと言われたのに、Bさんにはダメだと言われた…」という経験もありました。
それに、ビジネスとしては「OK」だと判断しても、それを契約書の言葉に落とし込むのは、すごく難しいじゃないですか。専門知識の壁があり、わずかな表現の違いでビジネスチャンスがリスクに変わってしまう。
「この難しさや非効率を、どうにかできないか」とずっと思っていたんです。だからこそ、この契約にまつわる一連のプロセスを根底から変えたい。面倒な手続きだった契約が、ビジネスを加速させる力に変わる。そんな新しい文化を創れるはずだと信じています。
全社最適を実現するカギは「CSの伴走力」
——そうした変革を起こすためにも、MNTSQは法務部だけでなく、事業部も含めた「全社での活用」を重視しています。その思想について、北野さんはどのようにお考えですか?
北野:
そうですね。結局、契約の発生源は、いつだって事業部門なんですよね。それに、契約を結んだ後の管理責任も事業部にある。
だとすると、法務部門だけでプロセスを閉じても、あまり意味がないんです。事業部との連携でボトルネックが生まれ、ビジネスのスピードが犠牲になってしまいます。だからまずはこの分断をなくし、契約が生まれてから終わるまでの全プロセスにおいて、法務と事業部が同じ情報をスムーズに見られる状態を作ることがすごく大事なんです。
加えて重要なのは、法務と事業部が同じ基盤を使うことで、過去の契約条件やリスク判断といったナレッジが「組織の資産」として未来に活かせるようになること。これによってはじめて、ビジネスは本当の意味で加速します。だから私たちは、法務部門だけでなく、事業部門を含めた全社活用を何よりも重視しているのです。
——とはいえ、会社ごとに契約のフローや手法も異なることがあると思います。そうした導入支援における難しさはどのように乗り越えているのでしょうか。
北野:
おっしゃる通り、企業によって事業部門と法務部門のパワーバランスや業務フローは全く異なります。
だから僕たちは、まずお客さんとじっくり話して、その会社ならではの関係性や業務フローを理解することから始めます。その上で、「既存のフローを活かすべきか、思い切って変えるべきか」をお客様と一緒に考え、最適な形を決めていくプロセスが一つの特徴です。
もう一つ大事なのが、過去の契約データの「移行」です。これまでの契約審査のやり取りがメールに埋もれていたり、締結済みの契約書がPDFとして保管されているだけで、資産として活用されていなかったり。そうしたケースは珍しくありません。
MNTSQを真に活用いただくためには、こうした過去のデータを参照できる状態にすることが不可欠です。そのため私たちは単にデータを移すだけでなく、導入後に本当に「使える」状態になっているかを見据え、徹底的にサポートします。利活用まで見据えたこの手厚い移行支援は、他社にはない強みだと自負しています。
——たしかにSaaSを導入したのはいいけど、データ移行はユーザー任せで「あとは頑張ってください」と言われても挫折してしまいそうですね。
北野:
はい。だから僕たちは、いわゆる「売りっぱなし」には絶対にしません。
その思想を形にしているのが、お客様一社一社につく担当のCSです。この専任CSが、お客様の業務フロー設計からデータ移行まで、責任を持ってやりきる。
法務部門の方がデータ移行に不慣れなのは当然ですから、時にはお客様の情報システム部門の方も巻き込みながら、導入後の活用までを見据えて最適な形で移行をやり遂げます。私自身も、納期が迫る中で関係各所に協力をお願いし、なんとか間に合わせた経験が何度もあります。この徹底した「伴走力」こそが、MNTSQの強みの一つでもあります。
事業部と法務をつなぐ「MNTSQ AI契約アシスタント」とは
——今年の秋には、「AI契約アシスタント」もリリースされます。AIの活用について、北野さんはどのようにお考えですか。
北野:
今や検索エンジンのように、生成AIに質問することが当たり前になりました。私たちは、この流れを業務プラットフォームへと組み込もうとしています。
その第一弾が、今年秋にリリースされる「AI契約アシスタント」です。これは、事業部門の担当者が法務部に相談する前に、まずはAIエージェントへ気軽に質問できるサービスです。契約相談における心理的・時間的ハードルを大きく下げることで、事業のスピードを加速させることに貢献します。
——AI契約アシスタントの導入で、具体的にどんな変化が生まれそうでしょうか。
北野:
たとえば事業部門の視点から見ると、契約相談は時間がかかり、少し分かりにくい点も多いと思います。特に大企業では、法務担当者の顔も知らず、「こんな時間に相談していいのだろうか」と躊躇してしまうこともあるでしょう。
でも、手前にAIエージェントがいれば、24時間いつでも気兼ねなく質問できます。その場で回答やヒントを得ることで時間は短縮され、「これはちゃんと人に確認した方が良さそうだな」といった当たりもつけやすくなります。結果として、予備知識を持った上で相談できるようになるので、法務とのコミュニケーションは格段にスムーズになるはずです。
——AIの進化は、契約業務に携わる「人」、特に法務のような専門家の働き方にどのような影響を与えるのでしょうか。
北野:
一昔前は「人かAIか」という二元論で語られがちでしたが、今はその風潮も変わりつつありますよね。AIは人を代替するのではなく、「人を助けるエージェント」であるという考え方が主流になりつつある。私たちのリーガルエージェントも、まさにその思想に基づいています。
特に法務部門は、高い専門性が求められるにも関わらず、人材の流動性も高く、常にリソースが限られています。ビジネスが複雑化し、相談の量・難易度ともに増大する中で、彼らが疲弊してしまっては事業全体が停滞してしまう。AIは、そんな法務部門の能力を拡張し、彼らがより創造的な仕事に集中できるよう助けてくれる、力強い味方になるはずです。
◼︎CSの「伴走力」が、AI時代の競争力になる

——AIが進化する中で、CSの役割は、逆にどう重要になっていくとお考えですか?
北野:
そこがまさに、これからMNTSQのCSが今後最も価値を発揮すべき領域だと考えています。
現状の生成AI活用は、結局、個人のスキルや意欲に依存しているんですよね。使う人は使うけど、使わない人は全く使わない。この活用度のムラをなくし、誰もが当たり前に使える「組織のためのAI」へと昇華させることが、僕たちのプラットフォームが果たすべき役割です。
ただ、AIを前提とした新しい業務フローには、まだ世の中に「正解」がありません。
だからこそ、私たちCSがお客様と膝を突き合わせ、「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤しながら、その企業にとっての最適な形を“共創”していくのです。
この伴走プロセス自体が、これからの差別化要素になると確信しています。お客様と共に考え、最適解を導き出す。それができるCSチームの存在こそが、サービスの価値を大きく左右する要素になると考えています。
——正解がないからこそ、「共に創る」という伴走の姿勢が、そのまま企業の競争力になるわけですね。
北野:
そうですね。プロダクトとビジネスサイド、両輪で進化し続けなければなりません。チャレンジングですが、それができれば他にはない価値を提供できる会社になれる。そう信じています。
それに法務部門という閉じた視点ではなく、事業部門を含めた「全社最適」の視点から提案を続けることが大切だと考えています。その先にこそ、今とは全く違う、新しい契約シーンが広がっているはずです。
——では最後の質問になります。MNTSQは、契約業務を文化レベルで変えることができそうでしょうか。北野:
はい。僕たちビジネスサイドと開発チームが密に連携し、この両輪をしっかり回していけば、文化レベルで契約業務を変えられる可能性を秘めていると本気で思っています。それこそが、僕がここで働く意味ですから。


