すべてのはたらく人に関係する「雇用契約」をフェアに。
リーガルテックツールを提供するMNTSQは「すべての合意をフェアにする」をビジョンに掲げ、誰でも一瞬でフェアな合意ができる世界を目指しています。あらゆる取引が成立するまでのリードタイムを短くし、誰もが不利益を被ることなく、契約できる社会を実現するため、ツールの提供や情報発信を続けています。
さて、「契約」と聞くと、基本は企業間で交わすもので、日々生活するうえで自分には関係ないと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、すべてのはたらく人は「雇用契約」という、避けて通れない「契約」を経験しているはずです。
新卒入社や転職の際に、企業から必ず渡される労働条件通知書(通称:オファーレター)。内容をしっかり確認し、理解したうえで内定承諾をしていますか?
「企業が作成したものだから、おかしな内容は盛り込まれていないはず」と、内容をよく確認せず承諾してしまうと、後々思わぬトラブルが起きてしまいます。
今回は、人事部の松本と大森、カスタマーサクセスチームの野崎のMNTSQ社員3名が、「雇用契約」について座談会を実施しました。はたらく人にとって身近ですがわかりにくい雇用契約との向き合い方や、トラブルを防止するための手段をまとめました。
労働条件通知書、しっかり内容を確認していますか?
ー まずは、皆さんの自己紹介をお願いいたします。
松本:
人事部の松本です。
これまでは人材業界で転職エージェントや人事を担当してきました。人材紹介や派遣の雇用契約にまつわるトラブルについて、かなりの数を対応してきました。その結果、内定承諾前のコミュニケーションが一番重要だと感じましたので、本日はその点を話したいと思います。
大森:
人事部で責任者をしております大森です。
私も転職エージェントをしておりましたが、今ではIT企業での人事経験の方が長いです。私は人事責任者として営業からエンジニアに至るまで、多くの職種の労働条件通知書を作成したり最終承認をしてきました。
野崎:
カスタマーサクセスチームの野崎です。
もともとは弁護士として、法律事務所で数年の企業法務関連の実務を経験し、その後MNTSQに入社しました。前職では労務関係の相談が多く、雇用契約の見直しや就業規則のレビューを担当していました。
ー ありがとうございます。雇用まわりの経験が豊富な皆さんと「雇用契約」についてお話していければと思います。
雇用契約を締結する上で、その大前提となるのが「労働条件通知書」。(※企業によってはオファーレター、内定通知書という呼び方をされることがありますが、「労働条件通知書」が正式な名称です。)
双方が納得して雇用契約を締結する上でとても大事なものですが、しっかりと内容の確認ができていない人も多いのではないでしょうか。
松本:
転職エージェントとして転職希望者を支援していた際には、最終面接に合格し、内定を通知される際にしっかり内定の内容、つまり労働条件通知書を見ている人は少ないと感じていました。
項目も多く長いし複雑だし、事前に聞いた給与の金額や労働時間など、ある程度を確認して、大丈夫そうであれば細かい部分までは見ない、という方が多い印象です。
ー これから自分が働く企業からいただくものなので、あんまり変なことは書いていないだろうと思い、よく読み込まずに判を押してしまう、などが多そうですよね。
実際に、労働条件通知書の内容を確認していなかったことが原因で、トラブルが起きてしまったりするのでしょうか?

野崎:
そういうトラブルはよく聞きます。
例えば、労働条件通知書に記載されている想定年収に、実はボーナスやインセンティブが含まれていて、必ず支給されるベースの年収は低くなっているケースがありましたね。
ほかには、面接では正社員で入社確約と言われていたのに、入社したら有期雇用の契約社員としての扱いになっており、正社員になるには社内の面談面接を踏まないといけない制度になっていたとか。
どちらのケースも、実は労働条件通知書には明記してあったのですが、雇用される側が気づかなかったためにトラブルに発展してしまった、というパターンですね。
大森:
他にもよくある例だと、「給与の考え方」があるかなと思います。
労働条件通知書には「固定残業30時間込みの月給」と書かれていたものの、労働者側が固定残業代が含まれない月給と勘違いをしており、給料日に「残業を10時間したのに、その分の残業代が入ってないです、どういうことですか!?」みたいな声が、働き始めてから挙がってきたりもありますよね。
松本:
勤務地の変更などもありますね。転居を伴う転勤などは考えにくいですが、労働条件通知書には横浜支店配属となっていたものの、入社直前に社内の人員配置の都合上、だいぶ通勤時間のかかる渋谷支店配属に変更されたりすることなどもあります。
労働条件通知書には但し書きで「転居を伴わない範囲で配属先が変更になる可能性有」と書かれていても、それを見落としてしまっていると、トラブルとはいかないまでも、温度感が下がった状態で入社することになってしまいますよね。
大森:
表面化しないトラブルも結構あると思います。
「書いてあることが事実と違った」もですが、「自分の期待と違った」というのもトラブルになってしまいますね。この辺のニュアンスも、事前に労働条件通知書をよくチェックして、入社前に確認できると安心です。
ー 一般的には、内定時に「労働条件通知書」いわゆるオファーレターが渡され、「労働条件通知書」に問題がなければ、内定先の企業から「雇用契約書」が発行されて「雇用契約」をする、という流れですよね。

大森:
そうですね。本来であれば、入社前に労働条件通知書を確認し、それと同内容が記載されている雇用契約を入社前に締結してから入社、というのがベストなのでしょうが、雇用契約は企業は入社が決まったあとで締結している企業も多いです。
MNTSQの場合は、オファー面談で労働条件通知書をお渡しし、双方内容に異論がなければ、入社日前に雇用契約を締結しています。就業規則も入社前に提示しています。
もし入社後のタイミングだと、万が一何か気になるポイントがあっても、もうサインをしなければならない、という圧力があると感じてしまいますし、そうなるとトラブルも大きくなってしまいます。
実は、労働条件通知書は誰でも作成が可能。弁護士確認なしの場合も。
松本:
実は、労働条件通知書は弁護士が作成・確認しなければいけないなどのルールはなく、誰でも作れるものなんです。
雇用される側だけでなく、作成している企業側も、よくわかっていない状態で契約書を作ってしまっている場合があります。
労働条件通知書の基本的な雛形をどこかのWebサイトからダウンロードして、それを元に自社向けの契約書に整えていくのはよくあるパターンなのですが、実は意図せず、労働基準法や労働契約法で禁止されている項目を盛り込んでしまっていることがあります。
ー 資格がある人が作る、などではなく、誰でも作ることができてしまうんですね。そう聞くと「ちゃんと確認しないと」という不安な気持ちになります。
野崎:
もちろん、弁護士に相談されたり、ちゃんと専門家のアドバイスをもらいながら作っている企業さんもいらっしゃいます。弁護士や専門家は、相談してもらえたら「これは駄目です」というふうに言えるんですけども、全ての企業にリーガルサービスへのアクセスが保証されているわけではないため、弁護士チェックをスキップしている企業も一定数存在しています。

松本:
厚生労働省もハローワークによくくる苦情として「求人票と実際の労働条件が異なること」を挙げています。これは、労働条件通知書を事前にしっかりと確認できていない事に起因することが多いですね。こういった課題を受けて、「職業安定法」という法律は都度改正されており、令和6年4月より、
- ①従事すべき業務の変更の範囲
- ②就業場所の変更の範囲
- ③有期労働契約を更新する場合の基準
上記を労働条件通知に明記するなどのルールが追加されました。
ただ、企業側も雇用される側も、そのような法改正があり、募集時等にこれらが明示されていなければならない、ということも、まだまだ広く認知はされていません。
職業安定法:
職業安定法とは求人や職業紹介における法律のひとつです。主に労働者募集、職業紹介、労働力の供給についてなど、働く権利を守るために定められた法律です。
ー 企業側の意図していないところで、労働基準法・職業安定法に違反している内容が、労働条件通知書に盛り込まれてしまっている可能性もあるということですね。法改正を見逃してしまうと、雇用される側も、労働条件通知書を作成している企業側にとっても、大きなリスクになりそうです。
野崎:
雇用される側も企業も、双方にとって良くない状態ですね。
具体的に、労働基準法に意図せず違反してしまう例としてよく聞くのは、固定残業代についてどう記載すればいいか企業がわかっていないケースです。労働基準法では固定残業代についての定めはありません。「固定残業代をつければ無限に働いてもらえる」と誤解している企業もいます。固定残業を取り入れていたとしても定められた固定残業時間を超えた分は追加で残業代を支払わなければ労働基準法違反になります。
ほかにも、「裁量労働制は残業代は払わなくて良い」と企業が解釈してしまっているのもよく聞きます。応募する側も、「裁量労働制」という見慣れた単語なので、「残業代は払われなくても仕方ない」と受け入れてしまいがちなんですよね。
松本:
このような状況を改善するには、企業が弁護士や社労士に有料で相談し、法に則った雇用契約にするというのがベストではありますが、有料で相談できない企業もあると思います。
そういう場合には企業側も労働基準監督署に相談しに行くのが一番理にかなっていると思います。
労働基準監督署における中小企業事業主に対する相談支援:
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03141.html
大森:
企業と個人の双方が、契約や法に対して感度を高めていく必要がありますね。
雇用契約が労働基準法や職業安定法に則って締結されていないことによって両者が抱えるリスクや生じるデメリットを認識し、双方ともに積極的に専門家、もしくは労働基準監督署等の第三者に相談しに行くのが良いと思います。
例えば、厚生労働省の雛形は、記入する項目が多く扱いが難しいと感じるかもしれませんが、こちらに沿ったものを作れば、トラブルのリスクは減らせると思います。
厚生省 各種労働条件通知書:
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/_85811/yatoiire_ruru/_87699.html
労働条件通知書は「提示されるタイミング」「手段」「項目」に注目。不安がある場合は相談もできます。
ー では「雇用される側」が労働条件通知書を確認する場合、どんなポイントに気をつけたらよいでしょうか?

松本:
まずタイミングの話ですが、入社を決める前に労働条件通知書を書面としてもらうことは絶対に必要です。
厚生労働省や企業側、転職エージェントの努力によって、以前よりは労働条件通知書を発行しない企業は少なくなってきましたが、まだ労働条件通知書が発行されず、口頭で労働条件を伝えられただけだったと聞くことがあります。
また、労働条件通知書はもらったけど、「入社日」と「給与金額」しか書かれていない、必要項目がすべて記載されていない、というケースもあります。企業側が、求職者が内定を承諾する前に、法に則った労働条件通知書を提示するのが当たり前とされる世の中になると良いですね。
野崎:
労働条件通知書の内容や項目は、厚労省が出している標準労働条件通知書と見比べて、同じような構成になっているかを確認します。異なる記載があったり、書かれていない項目がある場合は、なぜそのような構成になっているのか、今後所属する予定の人事担当者に確認してみましょう。
書面を交付して明示しなければならない事項
- 労働契約の期間(期間の定めの有無、定めがある場合はその期間)
- 就業の場所・従事すべき業務の内容
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務のある場合の就業時転換に関すること
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期
- 退職に関すること
口頭などによる明示でもよい事項
- 昇給に関すること
- 安全及び衛生に関すること
- 職業訓練に関すること
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、支払時期に関すること
- 臨時に支払われる賃金、賞与などに関すること
- 労働者に負担させるべき食費・作業用品その他に関すること
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関すること
- 表彰、制裁に関すること
- 休職に関すること
大森:
例えば、退職金について何も書いてなければ、「この会社の退職金はどうなってるのかな?」と聞いてみてもいいと思うんです。「退職金はないので記載がありません」という説明があれば、企業への納得度も高まりますよね。働く人を大切にする企業であればしっかり答えてくれるはずです。
野崎:
そうですね。疑問点や違和感があれば、今後所属する企業の人事に、まずはちゃんと聞くべきなのかなと思います。
企業の人事担当者に聞くのが難しそうであれば、労基署の雇用条件相談所で相談することも可能です。ギャップを埋めていくための努力を、企業・雇用される側の双方でそれぞれしていくべきだと思いますね。
労基署 労働基準行政の相談窓口:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/kijyungaiyou/kijyungaiyou06.html
ー 誰もが不利益を被ることなく、フェアな契約ができる社会が実現されるために、企業も個人も、それぞれが雇用契約について確認すべきポイントに注目するべきですね。
皆さま、ありがとうございました!